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水素がヒト単球株化細胞THP-1に与える影響
鈴木 武人、福岡 秀雄
麻布大学獣医学部基礎教育研究室(生物学)
(229-8501)神奈川県相模原市淵野辺1-17-71
<要約> 
本実験ではヒト単球株化細胞であるTHP-1細胞およびTHP-1細胞をホルボールエステルで分化させたマクロファージを用いて、水素がこれらの細胞の機能にどう影響するかを検討した。ひとつはマクロファージの貪食能、もうひとつは単球からマクロファージへの分化に与える影響である。これらは細胞に蛍光ビーズを貪食させ、その蛍光強度を測定することで評価した。  その結果、水素が単球やマクロファージの生存に影響を与えることなく、貪食能を低下させることが明らかとなった。特に単球からマクロファージへの分化誘導時に水素が存在すると、その後の貪食能が通常時の半分程度にまで低下した。
<緒言>  
我々は体内に存在する免疫系によって細菌やウイルスといった病原微生物の感染から身を守っている。免疫の基本は外来異物を非自己として認識、排除することであり、われわれは自然免疫系と獲得免疫系という2つの仕組みを持っている。前者はマクロファージや好中球といった異物を貪食する細胞により異物を非特異的に消去する系であり、後者は自然免 疫系の細胞から得た異物の情報を基にリンパ球が特異的な免疫応答を行う系である。  本実験では上述の貪食および抗原提示を行う細胞であるマクロファージ、その前駆細胞である単球を用いて、マクロファージの貪食能、単球からマクロファージへの分化に与える水素の影響を検討した。

<材料>

・THP-1細胞
 ヒト急性単球性白血病由来の細胞株。Phorbol ester
  (PMA等)によりマクロファージ様に分化する。
・RPMI1640培地
・Phorbol 12-Myristate 13-Acetate(PMA)
・蛍光ビーズ
 貪食能測定用、直径1μm、FITC標識
・リポポリサッカライド(LPS)
  LPSはグラム陰性細菌由来のエンドトキシンで、マクロ
ファージを刺激、活性化する。(図1参照)
    

<コントロール区と比較区>

 Cont.はPMA添加後、CO2インキュベーター内で37℃、72時間培養後、1時間蛍光ビーズを貪食させ、プレートリーダーで蛍光強度を測定した。数値は貪食した蛍光ビーズの量を表し、数値が大きいほど細胞一つあたりの
ビーズ貪食数が多いことを示している。LPS添加によりマクロファージが刺激され、貪食能が1.4倍に上昇している。

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<試験内容および結果@>

マクロファージ様細胞に分化したTHP-1細胞の貪食能に与える水素の影響

内容:
・THP-1細胞を96wellプレートに5×105cells/well の細胞数で分注し、PMAを添加してマクロ ファージに分化させた。分化は通常PMA添加 後72時間を要するため、CO2インキュベーター 内で37℃、72時間培養後、試験を行った。
・分化誘導終了後の細胞は培地を取り除き、 リン酸緩衝液で洗浄、水素を添加した液体 培地に交換した。

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・上述の細胞の培養液中に蛍光ビーズを添加 し、6、12、24時間培養後、蛍光強度を プレートリーダーで測定した。

結果:
・数値は貪食した蛍光ビーズの量を表し、数値 が大きいほど細胞一つあたりのビーズ貪食 数が多いことを示している。
・Cont.区は市販培地を使用し、他に何も加え ていない実験群である。細胞はすでにマク ロファージに分化しているため、蛍光ビー ズを添加すると異物と認識して貪食する。
 0、6、12時間と値が上昇しているのは細胞 の成熟度が増したために貪食能が高まった※  ものと推察された。
・H4OおよびH4OにLPSを添加した試験区で は、時間の経過に伴った蛍光強度の増加= 貪食能の上昇がみられず、横這いに推移し ている。このメカニズムは不明であるが、 何らかの理由によりH4Oがマクロファージ の活性化を阻害しているものと示唆された。 LPSはマクロファージを活性化させる物質 であるにもかかわらず、水素が存在するこ とにより、その効果はほとんどみられなか った。
 ※ マクロファージは自身が分泌するIFN-γによって 活性化され、貪食能が高まるとされている。

<試験内容および結果A>

THP-1細胞におけるマクロファージ分化誘導時の水素の影響

内容:
・THP-1細胞を水素に添加したRPMI培地で 培養し、マクロファージへの分化に対する 水素の影響を貪食能により検討した。
・試験は96wellプレートを用い、細胞濃度は 5×105cells/wellとした。
・細胞を水素添加培地に浮遊させた後、PMA を添加してマクロファージに分化誘導した。 LPSの添加はPMAと同時に行った。分化は 通常、PMA添加後72時間を要するため、CO2 インキュベーター内で37℃、72時間培養し、 貪食能を測定した。
・上述の細胞をリン酸緩衝液で洗浄後、ビーズ を添加した培地を加えて1時間ほど培養後、 蛍光強度をプレートリーダーで測定した。

結果:
・数値は貪食した蛍光ビーズの量を表し、数値 が大きいほど細胞一つあたりのビーズ貪食数 が多いことを示している。
・Cont.区は市販培地にPMAを添加しマクロ
 ファージに分化させたときの貪食能である。
・水素添加培地(PMAなし)区はマクロファージ へ分化誘導していない、単球のままの貪食 能である。本来、単球は貪食しないので0 になるはずだが、非特異的なビーズの結合 等により若干の値の上昇がみられる。ここ に示していないが市販培地のみでも同様の 結果となるため、H4Oに単球に対する分化 誘導作用はないことが認められた。
・水素添加培地区はCont.区と同様の条件で、 培地のみ水素添加培地に変更した試験区で ある。貪食能がCont.区の56%となり、PMA による単球の分化および分化後の活性化を H4Oが抑制していることが示唆された。
・水素添加培地+LPS10ng、100ng区は上記試 験区にLPSを10ng/mlまたは100ng/mlの容 量で添加した試験区である。マクロファージを刺激するLPSが存在していても、実験@ 同様、Cont.区と比較して貪食能が低下した。

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<参考文献>

1. Kurosaka K, Watanabe N, Kobayashi Y., Production of proinflammatory cytokines by phorbol myristate acetate-treated THP-1 cells and monocyte-derived macrophages after phagocytosis of apoptotic CTLL-2 cells. J. Immunol., 1998, 161, 6245-9.

2. Kurosaka K, Takahashi M, Watanabe N, Kobayashi Y., Silent cleanup of very early apoptotic cells by macrophages. J. Immunol,. 2003, 171, 4672-9.

<まとめ>

 2つ試験の結果から、H4Oには異物侵入初期の免疫応答に関わる単球、マクロファージといった細胞の活性を抑制する働きが示唆される。これらの細胞はアレルギーにも深く関与しており、これらの細胞が過剰に活性化することで皮膚炎などが悪化する。よってH4Oによりその過剰な活動を抑制することで、アレルギー性皮膚炎等への効果が期待される。

 また、単球、マクロファージの活性化を完全に抑えてしまうと、細菌感染などの際に、それらを排除することが出来ずに重篤な症状をきたしてしまう恐れがある。その点、H4Oでは活性化の抑制が完全ではなく、過剰分を抑えるような傾向がみられる。これは生体で利用する際に非常に重要なファクターとなるであろうと考える。



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